昨今の“給与支払い改革”において話題にのぼることが多い、ペイロールカード。デジタルマネーによる給与支払いが推進される背景には、銀行口座の開設手続きの難易度が関係しているようです。今回は、ペイロールカードの主な利用者として想定されている外国人労働者が、銀行口座開設で直面するハードルの高さについてご紹介します。
ペイロールカードへの給与支払い解禁の背景
日本では今、給与支払いの方法が大きく変化しようとしています。現在は現金ベースで行われている給与支払いが、今後はデジタルマネーによるペイロールカードへの給与支払いへとシフトしていく可能性が考えられます。そもそも、デジタルマネーによる給与支払いが解禁されようとしているのは、一体なぜなのでしょうか?
その理由のひとつに、外国人労働者からのニーズがあるといわれています。現状、外国人労働者が日本で働くうえでの課題となっているのが、国内で銀行口座を開設するハードルの高さです。銀行口座を開設できなければ、振り込みによる給与支払いが前提の企業では、就労できないおそれがあります。
そこで、アメリカをはじめとした海外諸国ですでに導入されている、ペイロールカードへの給与支払いの解禁が検討されているのです。ペイロールカード宛てに給与の送金ができるようになれば、銀行口座を開設しなくても日本で労働ができ、また海外への送金も行いやすくなります。
給与支払いの受け口となるペイロールカードとは?
そもそもペイロールカードとは、給与支払いに用いられるプリペイドカードの一種です。企業が給料日に従業員のカード宛てに入金することで、従業員はデジタルマネーで給与を受け取ります。カードはそのまま店舗での各種支払いに利用可能です。もちろん、ATMで現金を引き出すこともできます。
ペイロールカードは外国人労働者の就労支援だけでなく、日本のキャッシュレス化の推進にもつながると考えられています。今後、デジタルマネーでの給与支払いが解禁されれば、日本人の労働者にもペイロールカードが普及するでしょう。デジタルマネーがより多くの人に利用され、日常生活における利用範囲が広がると見込まれます。
今、日本は少子高齢化にともなう慢性的な人手不足の状況にあり、将来的にはさらに外国人労働者が増えると考えられています。そんな社会的背景から、外国人労働者の就労を後押しするペイロールカードが導入され、給与支払いの制度が変わろうとしている段階です。ペイロールカードは、2019年に解禁されるといわれています。
外国人労働者が銀行口座を開設するハードル
日本で銀行口座を開設するのは、外国人にとって手続きの難易度が高いといわれ、課題となっています。国内にお住まいの方でも、必要書類が多く手続きが煩雑な口座開設にハードルの高さを感じたことがあるのではないでしょうか?
まず、外国人は滞在の条件によって銀行口座を開設できない場合があります。たとえば、短期滞在の方は口座の開設ができません。同様に、観光ビザなどでの90日以内の滞在でも開設は不可となります。長期滞在ビザをお持ちの方でも、滞在期間が6カ月未満であれば、基本的には開設ができないと決められています。
条件に合致して銀行口座を開設できる方は、本人確認のために「在留カード」や住所を証明できる書類の提出が必要です。また、日本人の口座開設と同じく印鑑を持参しなければなりません。印鑑がない場合には、調達してから口座開設の手続きに入ります。このとき銀行の窓口が外国語に対応していなければ、本人の日本語の習得度によっては、手続きが大幅に難航することが予想されます。
銀行口座の開設までには、このように多くのハードルがあるのが現状です。
ペイロールカードの導入に期待が高まる
ペイロールカードは外国人労働者だけでなく、すでに国内で働いている労働者にとっても利便性が高い仕組みです。デジタルマネーを利用することで決済が効率化され、現金の盗難や紛失のリスクを抑える有効な対策につながると考えられます。
ただし、ペイロールカードへの給与支払いには、さまざまな課題も残されているようです。デジタルマネーを現金化したときの手数料の金額設定をはじめとして、労働者にフェアな条件が整うまでには今しばらく時間がかかるかもしれません。
企業の給与支払いは、ペイロールカードのほかにもさまざまな変化を迎えています。近年注目を集める給与前払い・日払いなど、給与支払いの方法に多様性が求められています。社会の変化のスパンが速い今、企業は新しい給与支払いの方法について、いち早く取り入れる姿勢が求められるようになるでしょう。
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外国人が銀行口座を開設するときは、滞在期間によるハードルや、申し込み手続きのハードルなど、さまざまな障壁があります。その解決につながると期待されているのがペイロールカードです。社会にインパクトを与えると見込まれている“給与支払い改革”を前に、国内の現状について理解を深めておきましょう。