ペイロールカードは、デジタルマネーでの給与支払いの受け口として、アメリカですでに導入されています。今後は日本でも普及する可能性があり、求職者のニーズに応えるため、各企業でも解禁へ向けて準備が進められようとしています。
今回は、ペイロールカードの導入間近に振り返っておきたい、日本のキャッシュレス化の現状についてお伝えします。給与支払い改革前に、国内のキャッシュレス化の状況について、把握しておきましょう。
日本はキャッシュレス後進国?
経済産業省が2018年に発表した資料「キャッシュレスの現状と今後の取組」によると、2015年における日本のキャッシュレス比率は18.4%という結果でした。キャッシュレス先進国の数値と比較すると、やや後れをとっている状況です。
- 韓国 89.1%
- 中国 60.0%
- アメリカ 45.0%
- インド 38.4%
キャッシュレス先進国では、すでに比率が40%を超えているのに対して、日本はまだ伸びしろがあります。世界的にキャッシュレス化が進んでいることから、国内では今後のキャッシュレス化の推進を目指して、さまざまな取り組みが始まっています。
たとえば、企業の給与支払いでペイロールカードの導入が検討されているのも、その一環です。今後、従業員の給与支払いを、ペイロールカード宛てに行う企業が増加する可能性もあり、給与支払い改革への関心が高まっています。
日本のキャッシュレス化が遅れた背景
そもそも、キャッシュレス先進国に対して日本のキャッシュレス化が後れをとった背景には、どのような事情があるのでしょうか?
理由のひとつとして考えられるのが、日本の治安の良さです。海外諸国では、治安の悪さから現金の持ち歩きに危険がともなったり、偽の硬貨や紙幣が出回っていたりと、現金ならではのリスクが課題となっている場合があります。このような状況から、現金に不安を感じている市民が少なくありません。
こうした事情があり、現金の持ち歩きが不要で、硬貨や紙幣を使うことなく決済ができるデジタルマネーは、安全性の観点から支持されたのです。このように、社会情勢がキャッシュレス化を推進するケースがあります。日本では現金への信用が依然として高いため、市民がキャッシュレス化に関心を持ちにくいと考えられるでしょう。
また、日本にはあえてクレジットカードの加盟店とならない店舗が数多くあります。クレジットカードの加盟店になると、手数料のコストが発生するため、店舗によってはデメリットのほうが大きくなる可能性があるためです。個人経営の店舗をはじめ、クレジットカードの利用範囲の狭さにも課題が残されています。
さらには、硬貨や貨幣が見えなくなることで使いすぎを懸念するなど、デジタルマネーに対する好ましくない先入観もあるようです。現金の信用の高さから、キャッシュレス化によるセキュリティ面を心配する声も挙がっています。
キャッシュレス化の先陣を切る「GATHERING TABLE PANTRY」
日本のキャッシュレス化にはさまざまな課題が残されていますが、昨今、国内でキャッシュレス化の先陣を切る店舗が登場しました。東京の日本橋に開店した飲食店「GATHERING TABLE PANTRY」です。完全キャッシュレスの方針で運営される店舗として、今注目を集めています。
同店は現金での会計ができませんが、その代わりに選べる支払い方法は豊富です。各種クレジットカードや各種電子マネーなどを次々と導入し、利用者の利便性の高さが追求されています。公式サイトの情報によれば、2019年8月時点で28ブランドの支払い方法を選択可能となっています。
支払い方法の選択肢は広がりつつあり、今後も拡大していくと予想されます。飲食業界は衛生面の問題から現金の取り扱いに注意が必要です。国内でも、将来的に「GATHERING TABLE PANTRY」のように、完全キャッシュレスの店舗が各業界で登場するかもしれません。
ペイロールカードの導入は近い将来に迫っている
デジタルマネーによる給与支払いの解禁へ向けて、着々と動きが進められています。従来の銀行口座への振り込みに加えて、ペイロールカードへの入金で給与を支払う企業が解禁後に増加すると見込まれています。
ここまでキャッシュレス化で後れをとった日本ですが、市民の生活と密接に関わるペイロールカードの導入によって、今後はキャッシュレス化が加速する可能性も考えられるでしょう。就職先を選ぶ求職者のニーズへの影響も見逃せません。
求職者の要望に応えるため、デジタルマネーでの給与支払いに対応するなど、人材採用における戦略も変化します。ペイロールカードの導入後、いち早く人材確保でのアドバンテージを得るために、自社の制度の見直しを行いましょう。
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給与支払いの選択肢が増えつつあります。すでに給与相当額の前払い(随時払い)に対応する企業も多く、給与支払いの制度の見直しが人材確保のカギとなるかもしれません。外国人労働者の活用が期待されている昨今、ペイロールカードをめぐる動向に引き続き注目しておきましょう。